みやけばなし

日々の記録とフラッシュフィクション

トナラー供養(2024年10月29日)

11月初週まで一か月、復職に向けての仮出社という微妙な状態にある。仮出社というのは、特定の作業を言い渡されてるわけではないがとりあえず会社の別室に来て業務時間いっぱい滞在していてください、という期間だ。会社への行き帰りだけで具合が悪くなったり、日中起きていられないみたいなことにならないかどうかを見る馴らし期間なので、基本的に自由に過ごしていて良い(その代わり給料は出ない)。私の場合、最低限提出を求められていた「不眠症になってしまった原因と対策についてのレポート」を書き終えたので、今は本を読んで過ごしている。

 

で、今非常に気になっているのだが、自習席に座っていると、他に席が空いているのに毎回隣に座ってくる女性がいる。他にいくらでも席が空いているのに、である。いわゆるトナラーというやつだ。気になるというのは好意的な意味ではなく、単純に怖いという意味だ。特に他に誰もいなくてシンと静まり返っているようなとき、一応アクリルパネルの仕切りがあるとはいえ、広い部屋の隅っこにラーメン屋のカウンター並みの距離で無言で二人机に向かっているのは非常に胃がもたれる。

 

「何で隣に座ってくるんですか?」と聞きたいのはやまやまだが、怖くて聞けない。聞くなら最初に座って来たときが適切なタイミングだったと思うのだが、逃してしまった。なるべくやんわり指摘したいものの、他の言い方も思いつかない。「あっちの席も空いてますよ」ダメだ、意味がよくわからない。「席なんてないですよ」と言われたらどうしよう。不思議の国のアリスか?

 

 

実は私はトナラーに苦い思い出がある。

高校の頃、国立のモスバーガーで昼食をとるため席に座った時、隣に座っていた男性が「死ね」「うぜえんだよ」等と一人でブツブツ言い始めたことがあった。別にそれ自体は良いのだが個人的には昼食は静かに食べたいと思ったため、その男性から離れた席に自分が移動して別の席に座った。するとなんとその男性は、ブツブツつぶやき続けながら私の後に歩いてついてきて、再度私の隣に座りなおしたのである。

私は内心パニックになってしまい。まだ半分しか食べていなかったモスチーズバーガーをダクトに放り込んで早歩きで店を出た。何度も振り返ったが、さすがに外まではついてこなかった。

 

それと同じことにならないかが心配なのである。

 

だがしかし、これは捉え方を変えてみればトラウマを払拭するチャンスかもしれない。トナラーの多くは、パーソナルスペースが平均より狭くかつ使いたい場所にこだわりがあるだけで、深い意図はないと聞いたことがある。モスのあれは特にヤバい事例だっただけで、よもや社内にいる人がそういう挙動に出ることはないだろう。

 

私は、恐る恐る今座っている右端の席を立って、カウンターの一番左の席に移動した。

 

しばらくして、隣に座っていた女性は立ち上がって5分程どこかに行った。しかし戻ってきて、また同じ席につき、同じ「右から二番目の席」で作業を継続している。良かった。「深い意図はない」パターンだった。おそらく「なるべく右側の席に座りたい」とか、そんな感じのこだわりなのだろう。めずらしくこの世から一つ怖いものが減った。今日は良い一日だった。