フラッシュフィクション
エクスプレスと命名されたその公共サービスは、これ以上省くところがないほどに無情なまでに効率化されている。登録しているクライアントは、いつでも自身の希望するときにサービスを利用できる。 利用者はまず第一セクターへ案内され、カプセルホテル程度の…
ホルスター・ローランドは、有名な旅行家です。ボロボロの自転車で世界中を旅してまわり、そこで出会った人々や風景、不思議な出来事などについて書いたわくわくするような旅行記は、多くの人の冒険心をかき立てました。 ホルスターが亡くなったとき、その功…
マックスウェルは毎朝工場で素晴らしいパンを焼く。そのパンを市場へ持っていく。マックスウェルのパンは誰も買わない。マックスウェルが焼いたパンだから。 マックスウェルは毎日パンを市場へ持っていく。一体何のために?マックスウェルのパンを何故誰も買…
空はあまりに広いので、全てを見渡すわけにはいかない。しかし陽の光や雨粒が「私にだけ」届かなかった日はない。私の上だけ雨が二倍降ったり、私の家だけ朝が来なかったこともない。そのことをときおり申し訳なく思う。
その映画館では、何も上映していません。大きなスクリーンと、席だけがあります。お客さんは席に座って、今までの自分の人生を思い返します。 幼稚園にあがる前、幼稚園、小学校、中学校、…… そして今にたどりついたら、席を立って帰ります。 「長かった」と…
その村には「虹の丘」とよばれている有名な丘がありました。雨があがった次の日にお日さまが顔を出すと、丘にはこまやかなきりが立ちこめ、やがて虹があらわれます。その虹がほんとうになだらかで大きくて、首を動かさないと全部いちどに見られないほど長い…
太陽は宇宙を見わたして思いました。「ここ真っ暗で何も見えないな」そこで太陽は自分を消してしまいました。なるほど、たしかに以前より、星々は「よく見える」ようになりました。しかしその光はやがて、一つ、また一つと消え、ちりぢりになってどこかへ飛…
クマは歩いていきました。そして池にたどりつくと、少し水を飲んで言いました。 「水は、いつも水だなあ」 水は答えませんでした。そういうところも、いつもの水でした。
「ああ、『君のことは忘れないよ』と言えたらどんなにいいだろう!」ジャバウォックは目に涙をうかべて言いました。「ここでは今日あったことは、明日までおぼえていちゃいけないんだ。次会ったときには、ぼくは君のことを忘れてしまっているだろうな」 ジャ…
死はきっと言うだろう、 「ざまあみろ、お前は最後にはこうして捕らえられた。 お前が今までしてきたことは、全て無駄だったのだ。」 と。 しかし、そのとき彼はそこにはもういないのだ。 彼の死体はそこに居ながら、存在は永久に確定し、動くことがない。 …
夜行蝶とはその名のとおり、夜に活動する蝶である。夜に咲く花の蜜を吸い、夜の間中飛び回る。 夜行蝶を捕えたいなら、夜にタモを振り回すのは得策ではない。彼らは夜通し飛び回り、明け方には疲れて人の頭に留まる。そこを捕えるのだ。
10年前、僕はある扉の前に立っていた。 扉を叩く。開かない。 僕は我慢強い方だったと思う。ときには弁当や寝袋まで持参して、数年もの間、日夜叩き続けた。 開かない。 僕はそのうち諦めて、別の入り口から外へ出た。 10年後、僕は扉のあった壁の向こう側を…
かつては木が葉を落として腐葉土になり、その腐葉土を糧としてまた木が生えた。しかし年々地表に「木ではないもの」が増え、ついに「木ではないものが木ではないものを生む」ようになったため、地層は「木ではないもの」で埋め尽くされてしまった。今では真…
崖から落ちても死なない方法が一つだけある。途方もなく高い崖から落ちれば良い。
田に水を引く水車に、愚か者が石を投げる。石が水車の回転を止め、私は石を取り除く。水車は再び動き出す。石は大した問題ではない。水の流れが問題なのだ。
毎朝目を覚ますと、頭の上に蝶がとまっている。一匹のときもあれば、前が見えないほどびっしりとまっていることもある。本当は全部捕まえたいのだが、一匹をつかむと他はどこかへ行ってしまって、どうしても一匹しか捕まえられない。今日はこの話しか捕まえ…
(下記の話は私が昔ネットのどこかで拾い読みして「確かこんな話だった」というのを思い出しながら書いた小話です。元ネタが載っているサイトをご存知の方がいましたら教えてください。) 俺の家の向かいには、お節介なおばさんが住んでいる。 いつだったか、…
クラスで孤立ぎみの坂野は、生活の授業の一環で育てているイチゴの世話に情熱を燃やしていた。 しかし坂野が数学の補修を受けている間に、誰かが『イチゴを収穫しよう』と言い始め、イチゴはクラスのみんなに勝手に食べられてしまった。 担任は坂野がほとん…