みやけばなし

日々の記録とフラッシュフィクション

二つのリンゴについて(2015年8月12日)

 カウンターで接客をしている最中、自分のレジのお客様が捌けて、隣のレジで二番目に並んでいるお客様に「こちらにどうぞ」と招き入れようとして「あ、一緒です」と言われることが多々ある。 「前に並んでるこの人の付き添いなので結構です」という意味である。気配りが行き届かなかったなぁと反省する。
 千住博先生の『絵を描く悦び』という新書に、だいたい要約すると以下のような内容のくだりがあった。

『「リンゴを2つ描く」ことと「リンゴを2回描く」ことは全然違います。白い紙に何も考えずさらさらとリンゴらしいものを二つ描くだけでは「リンゴを2回描いた」だけです。同じ空間にリンゴが二つあれば、二つのリンゴはできた枝が異なり、当然色合いや光の当たり方も違ってきます。「リンゴを2つ描く」とは、2つのリンゴの関係性、2つのリンゴの間の空白を描くことです。これができないと美大に行こうが専門に行こうが絵は上手くなりません。』
 言われてみれば当たり前のことだ。自分一人しかいない部屋と自分の他にもう一人でも誰かいる部屋では空気の感じ方が違ってくるし、同じ空間に置かれて全く干渉し合わないリンゴは存在しない。しかし絵を描くとき、いやもはや普段生活でも、他者同士の関係性に対して意識を払うということはとても難しい。
 小学生の休み時間、誰が誰を好きか、誰が誰に告白した、という噂話に馴染めなかった私は、家に置いてきたカマキリは餓死していないか、カマキリはバッタを食べただろうか、バッタは1日二匹で足りているのだろうか、帰ったらまたバッタをとりにいかないと、などと考えていた。