みやけばなし

日々の記録とフラッシュフィクション

空白ならば空白(2023年4月30日)

最近、空白に対して空白を返す、ということを覚えた。「連休何か予定あるの?」等と聞かれたときに今までなら「〇〇に行く予定です」等適当な嘘をでっちあげていたのを、「何もありません」と答えるようになった。何もないと答えても特に支障はないとわかってきたからだ。

 

私は今までの人生でいろいろなことに手を出してきた方だと思うが、「これが自分です」と胸を張れるような肩書もなければ特技もない。自己実現の物語が「自分には何もない」という前提からスタートした場合、まずはとにかく何か箔を付けて「何者か」になることを要求される。富と名声を手に入れるためには良質なコンテンツを効率よく摂取して正しく消化して血肉とし、得意分野を見つけて集中し、人より抜きん出なければならない、そんな説教が口酸っぱく繰り返されている。さながら芥川龍之介蜘蛛の糸のごとく、自己実現の潮流の中では誰もが引き上げられるチャンスを狙っている。

 

でも本当は箔なんかなくても、波長の合う人が数人でもいれば、人は幸せに生きていけるのではないか。本当は何もない上に箔を貼って自分に嘘をつくくらいなら、何もなくたっていいのではないか。自分が今持っているものを愛でて、今身近にいる人を大切にして、その時やってみたいと思ったことをゆるくやる。その過程で知らない人と巡り合ったり今まで付き合いがあった人と疎遠になったり、自分も少しずつ変わりながら生きていく、それではダメなのか。

 

Excelの「=A1&””」という数式が好きだ。Excelは見栄っ張りなので、「=A1」と入力しただけだと、A1に何も入力していなくても何故か0を返してくる。そこでわざわざ「=A1&””」と書くことで、「空白なら空白を返せ」と指示することになる。実際には存在しないものについて「いや、まだ大丈夫っす。自分ここに値入れていくつもりなんで」というファイティングポーズをとっていたら疲れてしまう。空白ならば空白を返すとは、そういう姿勢である。