みやけばなし

日々の記録とフラッシュフィクション

集合的無意識の巣(2023年7月16日)

カプセルホテルが好きだ。コロナ禍が始まった頃、ホテル代が安くなったのを見計らって新宿のホテルに週1で通っていた。カプセル状の室内から入り口の方へ目をやると、洞窟の中にいるようでどこか懐かしい感じがして落ち着く。

カプセルホテルは人間一人がギリギリ眠れる程度の長細い空間を上下左右に積み重ねた蜂の巣のような構造をしている。そのため、近くの部屋の人が寝返りを打つ音まで聞こえてくる。隣人が何かするたびに目が覚めてしまい、なかなか眠れない。そこで自分もなるべく物を取り出したりいじったりということを控えるということになるのだが、どうしても音を鳴らさざるを得ない要件がある。目覚ましアラームだ。

周りの人を起こさないためには、バイブ音でアラームを鳴らすという方が良いのだろう。しかしそれでは起きられないかもしれないし、飛行機等の絶対に遅れるわけにはいかない訳がある場合には心許ない。
そこをいくと最適解は「確実に起きるために一回だけ音を出してアラームを鳴らしてすぐに止めて起きる」ということになる。そしてこれを多くの人が五月雨式にやるので、朝4時頃からどこかしらでアラームが鳴るということが断続的に起こる。これによりさらに寝不足になり、「やはり確実に起きるため自分も音を出してアラームを鳴らす他ない」ということになる。軍拡競争みたいで嫌だ。

それでもカプセルホテルに泊まるのは安いからというのと、そこにしかない非日常感があるからだと思う。寝ている自分の空間の周りに知らない人の意識が点在しているという状態は、カプセルホテル以外では体験できない。意識が遠のくにつれて自分の意識と周りの意識が混在していくような、集合的無意識を思わせるような不思議な感覚になる。どうせ目が覚めたらまたバラバラになるのだが、そこには直接的な人間との関わりとは異なるなんとも言えない安らぎがあるのだ。自分がもし集合的無意識の存在を説く信仰宗教を立ち上げたら、信者の寝床は絶対にカプセルホテル状の構造にしようと思う。