みやけばなし

高円寺でギター弾いてるやつの日記

魔法使い見習い(2024年3月3日)

突然ギターが弾けるようになった。

 

 高校・大学時代軽音楽部でベースとボーカルをやっていて、その流れでギターも何度か挑戦してきたがどうしても弾けるようにならなかった。よくある話だがセーハコード(左人差し指の側面で複数の弦を一度に押さえる難しい弾き方)が鳴らず、どんな曲を弾いてもどうしてもとぎれとぎれになって曲にならない。買っては諦めて売り買っては諦めて人にあげてを繰り返してきていて、それでもどうしても諦められなかったので、去年の4月頃からまた練習を再開した。今回は過去の教訓から「鳴らない音があっても、逆に鳴るべきでない音が鳴ってしまっても気にせず弾き続ける」という方針をとっていたので、まあそのうち弾けるようになるだろうと気楽に構えて雑音を出していた。

 好きな曲をいろいろと弾けないなりになぞっていくうちに『陽炎』というフジファブリックの曲に行き当たった。

https://www.ufret.jp/song.php?data=10465

 一曲を通して1回もセーハコードが出てこない。右手のストロークはベースで覚えていたので、手を付けたその日に完全に曲になった。生まれて初めて、音のぶつ切ではなく流れとしてギターを一曲弾きとおすことができた。その瞬間「生きてて良かったな」と思った。「ギター練習してきて良かったな」ではなく、「生きてて良かったな」と思った。その後セーハコードも徐々に鳴る弦が増えていき、コード間の移動の隙間も短くなって、今までなあなあで弾いていた音がどんどん種から芽が出るように「曲」になっていった。

 

 サピエンス全史曰く、火を飼い馴らしたとき人類はエネルギーの発生をコントロールできるようになり無限の可能性を得たらしい。ギターが弾けるようになるということも、無限に自分の好きなように空気を生み出せるという意味では似ていると思う。ギターが弾けるようになる前はギターボーカルについて「ギターを弾きながらだと歌に集中できないから不利じゃん」と思っていたのだが、弾き語りの場合伴奏を完全に自分一人で行うため、強弱やスピードをその場で自分の好きなようにコントロールすることができるという点で歌っている本人が弾くことにアドバンテージがあるのだとわかった。これは本当に劇的なことで、自分の中ではほとんど魔法が使えるようになったに等しいくらいの革命的な出来事だった。

 

 なのにギターの練習帰りにバインミー屋に寄ったら、ギターを見た店主さんに「ギタリストさんだったんですね」と声をかけられて「いえそういうわけでは…」と言ってしまった。どのくらい弾けるようになったら、「ギターが弾ける」と言って良いのだろう。もう高校の頃には既に「練習してるんですけど全然弾けなくて」と「弾けてるじゃないですか」の問答をやっていた。あの頃はパワーコード(弦を二本しか押さえないロックの簡易コード)しか弾けなかったから絶対弾けてるとは言えなかったとして、今もコードしか弾けないしその中でもBコード等は全然鳴らないので「いやギターなんか弾けないですよ…」という気持ちになる。人前で堂々と弾けるようになったら?Xの紅のソロが完コピできたら?ナカヤマアキラさんくらいカッティングがうまく弾けるようになったら?ギターが弾けるといって良い…と思う。