昨年末に何かユニークなダイエット法はないだろうかと考えていたとき、ふと思いついて「何でも箸で食べてみたらどうだろう」ということを一週間ほど試してみた。
一週間ではさほど痩せはしなかったのだが、気がついたことや面白かったことをまとめておく。
【何でも箸で食べるとどうなるか】
1.一口が小さくなる
2.液体をすくえない
3.箸で食べられないものを食べなくなる
1.一口が小さくなる
まず容易に想像できるように、箸で食べるとフォークやスプーンで食べるよりも一度にすくえる量が減る。すると一口が小さくなり、食べるのに時間がかかる。また、一度に口に入る量が5分の1になったからといって噛む回数はそこまで減らないので、量換算での噛む回数も増え、結局よく噛むことにもつながる。
一番顕著に違いを感じたのは、アイスだった。アイスは普通スプーンで食べると思うのだが、アイスを箸で食べようとするとマジで検便みたいな量しかすくえないのだ(例えが最悪過ぎるが他に思いつかない)。
そして口に入れてみると、このくらいの量が、舌の上に乗せて、上顎で押し潰して、舌全体の表面に行き渡らせたとき、ちょうど良くあまりが出ない量であると気がつく。「これが正しいアイスの食べ方なのでは?」と錯覚するほどだ。
対してスプーンですくって食べると、金属が唇を滑る感触は心地良いが、口に入る量としては過剰過ぎる。舌に触れないまま飲み込んでしまっている分があるので、アイスの総量を「味わう」ということができない。
箸でアイスを食べると異常に時間がかかるが、少ない量で満足できる。しかし実際にはアイスは時間とともにどんどん溶けて液体になってしまうので、レストランなどでやるのは現実的ではない。食べさしを冷凍庫にしまうことに抵抗がない人なら、アイスの節約になるかもしれない。
2.液体をすくえない
箸は液体をすくえない。これは致命的な欠点であるように思われるが、考えようによってはメリットとも捉えられる。
中華料理に多いのだが、麻婆豆腐やエビチリ、あんかけの炒め物など、液体と固体が混在しているような食べ物の液体を一切食べることができない。こういった料理は液体をすくって食べるためにスプーンが付いてくるものだが、それが使えないので、個体の部分にからまず皿に残った液体は残すしかないということになる。麻婆豆腐の大部分を占める挽肉混じりの香味油はごはんにかけられないし、ラーメンのスープも1さじも飲むことができない。
これは「もったいない」ことなのだろうか?もったいないという気持ちになるのは、普段それらをスプーンですくって食べるというのが習慣化しているからかもしれない。もし子供の頃から親に「麻婆豆腐は豆腐だけを食べる料理なのよ」としつけられたら、そういうものだと思って平気で残してきたような気がする。当然摂取カロリーは激減するし、食事としての体験も違ったものになっていただろう。
3.箸で食べられないものを食べなくなる
ここまでの話を読んできて、「そんな食べ方をしては食事が楽しくないのでは」とか、「作ってくれた人に失礼だ」という感想を持った人もいるだろう。実際青豆のサラダやクスクス等、ポロポロしたものを食べようにも一度に数粒しか拾えないというのは急いでいるとかなりイライラするし、料理した人はこんな食べ方を想定していないだろうなと思うところはある。
そしてそうした体験を繰り返していると、箸で食べられないほどではないにせよ食べにくいであろう料理というのが次第に食事の選択肢から消えていき、結局箸で食べるという縛りがあっても何の懸念もなく食べられる和食を選ぶ頻度が増える。
そもそも箸で食べられない料理というのもある。ハンバーガー、サンドイッチ、食パン以外のほとんどのパン、おにぎりなど、「手で持ってかぶりつくことが推奨される食べ物」だ。そしてこれらはいわゆる軽食と呼ばれるカテゴリに属し、本を読んだりカードゲームをしたりといった「ながら食べ」の原因になりやすい。
箸で食べられる料理から食事のレパートリーを考える時点で、既に少しだけ健康に良い影響が始まっているのかもしれない。
まとめ
冒頭でも説明したとおり、これをやっても健康に良いとか痩せるとかいう効果があるかは全然わからない。人によってはイライラするだけかもしれないので、私からも特におすすめするつもりはない。痩せたいのであれば、このような小細工よりもきちんと摂取カロリーを計算して、歩数を稼いで筋トレしてという方が効果があるだろう。
ただ今回このような苦行を行う中で私は、「一度の食事中に複数種類のカトラリーを持ち替えずに済むようにメニューを構成すべき」というよくわからない美学を持つに至った。箸縛りを解禁してサラダをフォークで食べ、カレーをすくうためにスプーンに持ち替えた寸時、「え、何かめんどくさいな」という不快感が生じたのだ。自分で料理メニューを考えるときはちょっと気にしてみようかなと思ったりした。