みやけばなし

高円寺でギター弾いてるやつの日記

天使以下(2022年5月19日)

 緑内障になって初めて人間になれたような感覚がある。元々自分には性別の感覚がなく、病気になっても怪我をしてもすぐに治ってきたので、「完璧な自分を目指して神になるぞ〜」というような無邪気な驕りがあった。

 神なので当然人間は大嫌いだし、縁のない他人については「やってることを邪魔しないで」くらいの感情しかなかった。内心「こんな世界観で生きていては、人の喜びを自分の喜びにできないし、生きている値打ちがない。何とかしなくては」と思いつつ、何をどうすれば良いのかわからないまま100点の自分を目指してみていた。


 それがバベルの塔への雷さながら、「一生100点にはなりません」という宣告を下されたのである。


 緑内障と診断された日、郵便配達の人とかわす何気ない会話すらも愛おしく感じた。誰でもいいからそばにいて欲しいとはこういうことかと初めて知った。辞めたくて仕方がなかった職場の仲間も、喫茶店の店員さんも、人生の中で会える時間が有限であることが急に恐ろしくなった。


 その後は自分の元気を出すために、カラオケで大声で歌って鶏肉をトマトで煮て食べてリングフィットをして寝た。病気のときミスチルを聴くと良いと教えてくれたのは朝のテレビのニュースだったと思う。名前も知らない誰かや、もういなくなってしまったたくさんの人に支えられている。たぶんこれが「人間」ということなんだろう。


 いろいろやっていたら少しずつ元気になってきて、ミジンコくらいだった自尊心がクリオネ程度には回復してきた。もう神にはなれないけど、最終的には天使以下くらいで落ち着くことを目指している。


 緑内障になると、毎日目に染みる目薬を、忘れず差し続けないといけない。泣くと目薬が流れてしまうので、泣くこともできない。自分がいつか必ず死ぬということを、痛みとともに毎朝思い出させられるということは、捉える人によっては耐え難い苦痛だろう。

 しかし、どのみち人はいつか死ぬのであり、そのことがずっとわかっているということは、きっとそれで良かったのだ。生きていくことの濃度が明らかに上がった感覚がある。この気持ちを忘れたくないので、備忘録として残しておく。