みやけばなし

高円寺でギター弾いてるやつの日記

作為と視線の宮殿(さいたま国際芸術祭)(2023年12月3日)

【注意】12月10日までにさいたま国際芸術祭2023に行く予定の方はネタバレがありますので行った後に見ることを強く推奨します。

 

 

さいたま国際芸術祭2023のメイン会場に行ってきた。

展示会というと作品が点々と展示されている中を順路に沿って眺めていく…というのがセオリーだと思っていたが、今回のはその前提がことごとく通用しなくて大変面白かったので、その記録として残しておく。

 

会場の旧市民会館大宮は取り壊しが決まっているので、壁をぶち抜いて外から階段を通して二階から入れるようにしたり、透明なパーテーションで区切ることで特定の入り口からしか地下のあるエリアには行けなくなっていたりと複雑な構造に改造されており、順路が決められていないのもあってぐるぐる歩き回った。

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同じところを何度も歩き回るのだが、さっきはここになかったものが現れていたり、さっきいた人がいなくなっていたりする。明確な展示!という作品もあるのだが、だいたいがどれが展示物で、どれが展示物でないのかがわからない。

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わかりやすい展示!という作品は、それはそれで見応えがあった。はしごや机や椅子が宙に浮いて水面に映っているように見える部屋、

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ブラックライトを当てると詩が浮かび上がるポスター、

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やばいところで隔てられている机や部屋等

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特にこの部屋は机の向こう側にケーキなんかを置いて「日本の若年男性が福祉の対象としては不遇な境遇に置かれ、世代間の隔たりがあることをアイロニックに…」とかすることもできそうなところを敢えて特定の思想に引っ張らずいろんな見方ができるよう留めてあるのが良いなあと思った。

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謎の場所にやたらかけてあるハンガーも、スリップノットとかにしたらホラーになりそうだけどそうはせずあくまで「違和感がある」程度に留めてある。

 

代表的な展示物然とした展示物については紙面の地図で作者名や作品名があるのだが、ほとんどの展示物?には通常あるはずの「作品名 作者 製作年 解説」みたいなプレートが一切添えられていない。そのため、人為的に置かれている作品と、たまたま誰かが落としてしまった物の区別が曖昧で、見落としてしまいそうな「違和感」を探しながら歩くというのが面白い。

 

そしてこれらの違和感は、「スケーパー研究所」の研究対象として報告が推奨されている。

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どれが作品なのかどうかもわからないのだが、面白いモノや現象がたくさんあったのでそのうち二つを挙げておく。

 

特に面白かったアレ①

罠でしかない戸棚

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上の扉が普通の観音開きだったので下も同じように開けようとしたら、扉がバコっと丸ごと前に外れてしまった。引き戸だったのかと思い慌てて元に戻したが、溝が左右で互い違いになっていない。蝶番などもない。つまりこの下段の扉は、手前に無理矢理外すことでしか開けられない構造だったのだ。そもそもこれ開けちゃダメなやつだったんじゃない?と思われるかもしれないが、開けちゃダメなところには執拗に養生テープや「触れないで」の標識があるので、たぶんわざとだと思う。いやそれとも昔はこういう謎に不親切な構造の戸棚があったのか?わからない。

 

特に面白かったアレ②

建物の外にあった砂山。

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一回目通った時は周囲からやたら浮いている白い砂の山があって、特に誰もいなかった。山の中をまさぐると、目が描いてある石があったので作品だなとなった。

 

石を埋め戻してその場を離れたところ、箒を持った人が来て山を元の形に綺麗にならし始めた。山の頭の砂をバケツですくって全体を整えて、石を取り除いて脇によけて、裾野の砂をはいて集めて、表面を撫でて滑らかにして…やたら時間がかかるので、ずっと見ていたら人が集まってきてしまって「ただ掃除をしている人を20人弱が遠巻きに監視している」という謎な状態になってしまった。バケツに集めた砂を上からかけて終わり、くらいだと思っていたのに、しまいにはザルまで持ち出したので「これで時間取られすぎてもな」と思いそこを立ち去ろうとしたら、その人もザルは使わずにそこからスタスタいなくなった。

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美しくなった砂山

 

そしてその場から離れて遠くから振り返ったら、なんか上司みたいな人が来てさっき砂をならしていた人が作業方法を指導されているみたいだった。上司っぽい人は砂の山の裾野をさらに箒で丁寧にはき集めた後、山の砂をザルで濾し始めた。

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…ここまでが作品…なのか…?

 

まとめ

「SCP好きに刺さりそうなイベントがあるらしい」という誘いを受けて何もわからないまま乗り込んだが、想像以上に面白かった。

初見の印象としては「統合失調症の人はこういう作為を常時意識しながら生活していますっていう話かな」と思ったが、帰り際にはどっちかというと日常の中で作為的に作られたように見える違和感を発見して笑えるようになるということの方に狙いがあるのかもしれないというところに落ち着いた。「日常の小さな幸せを大切に」という格言はよく聞くが、「日常の小さな違和感を大切に」は駅のテロ対策くらいしか聞いたことがない。しかし、この展示会場だけでなく我々の日常には「これは作為なのか?」と思わせるようなシュールなモノや現象が溢れていて、それを拾う目を養うことは生きていく上で笑う機会を増やすことにもつながると思う。

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前日に駅で見つけた無傷の卵かけごはん風おにぎり。展示とは全く関係ない。たぶん

 

元々よく無傷の食べ物を道端で発見する私としては親近感のある感覚だが、それがどういう感覚なのかを人に伝えるのはとても難しい。「面白くなかったよ」と言われても何とも反論しづらいのだが、これを面白いと言ってくれる人と友達になりたいなという気持ちにさせられる不思議な展示でした。

ミーム汚染をくらいたい人は2000円握りしめて行ってみてください。12月10日(日)までらしいです。